EUR/USD: 米国の労働市場に注目
- DXYドルインデックスは、この一ヵ月で 5% 下落しました。2010年9月以来の最も下落率が高かった月になります。なお、米国通貨は、同期間でユーロに対して10%以上の下落でした。10月28日に遡るとEUR/USD は0.9541での取引でしたが、12月2日は 1.0544の高値です。 これには、いくつか理由がありますが、もちろん、大きな理由は、米連邦準備制度理事会の金利予想です。
組織のトップであるジェローム・パウエル議長は、11月30日(水)の発言で12月の利上げの減速についての可能性を改めて認めていました。市場関係者は、12月の利上げが75ベーシスポイント(bp)ではなく、50bpsにとどまることをこの発言の後で確信しました。したがって、フェデラルファンド金利の先物市場では、1月は引き上げをせずに、2月と3月に25 bps の利上げを1、2回おこない、その結果、以前の5.25%予想ではなく、4.75-5.00%予想です。その後、徐々に下げて2023年12月は4.45% の下落となるでしょう。
もちろん、これは単なる予想ですが、市場はこれに反応して米国債は急落でした。つまり、10年国債の利回りは3.5%の9月20日以来の最低水準で、2年国債は 4.23%に下げ、ドルに対して強い圧力となりました。さらに、FRB議長の発言は、米国経済統計の公表を背景しています。インフレの鈍化を示す一方で、米国経済が利上げによって適応しており、深刻なリセッションに滑り落ちる危険性がないということを示すものでした。これに反応して、市場のリスク選好が高まり、株価指数(S&P500、ダウ・ジョーンズ、ナスダック)が上昇する一方で、暗号資産市場は下落、ドルの下落が続きました。
中国もドル相場に介入しました。中国の孫春蘭国務院副総理は、コロナウィルスのオミクロン株はワクチン接種者の増加で発症率が以前より低下してきていると述べました。そのため、パンデミック対策は新たな段階に入りつつあります。政府は入院ではなく自宅隔離を一部の感染者に認める予定さえあります。このようにCOVID対策が緩やかになってきたことが、投資家のアジアへの投資意欲にプラスの影響を与え、ドルには新たな追い風となり、安全資産としてのドルの魅力が薄らいでいます。
FRB議長の “経済の崩壊” を回避している発言は政府が目標水準までインフレ率を下げる一方で、失業率は最低限度までに抑えたいという意向を示唆しています。このことを踏まえれば、米国の労働者市場のレポートは、すぐに、これまで以上に重要になります。そして、これは12月2日(金)に発表されたマクロ統計に対する市場の反応に明確に示されています。米国の失業率は、以前のままで、予想の3.7% に完全に一致しています。ただ、その一方で、非農業部門雇用者数(NFP)は、10月(284,000)より下回っていますが、予想の200,000よりも上回った263,000人でした。 これに反応した米国通貨は急伸でEUR/USD は1.0427に下落しました。しかし、その後、状況は落ち着き、すべてが正常に戻り、1.0535で終了しました。
調査対象のアナリストの50% は、このペアは1.0600まで上昇が続くと予想しており、20% が下落に転じると見通しています。残り30%は、中立を示しています。 ここで注目すべきは、中期予想になると、1.0000のパリティレベルを下回ると予想する弱気筋支持者が75%に急増することです。D1のオシレーター系では異なります。オシレーターの100%が緑ですが、このうち 25%は買われ過ぎ圏内です。トレンド系では、100% で優勢なのが緑です。
当面のEUR/USD サポートは、1.0500台、続いて、 1.0450-1.0467、1.0380-1.0405、1.0280-1.0315、1.0220-1.0255、1.0130、1.0070、0.9950-1.0010、0.9885、0.9825、0.9750、0.9700、0.964、0.9580、最終的には、9月28日の安値 0.9535。弱気筋の次のターゲットは0.9500。強気筋は、1.0545、1.0620、1.0750、1.0865、1.0935でレジスタンスに直面するでしょう。
今週は、かなり多くのマクロ経済統計が控えています。12月5日(月)は、ユーロ圏の小売売上高と米国の非製造部門景況指数があります。ユーロ圏の第3四半期GDP は、12月7日(水)に発表予定です。失業保険申請件数は、翌日の12月8日、米国の卸売物価指数 (PPI)は12月9日に公表されます。これに加え、市場参加者は、12月5日と8日に予定しているECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁の発言を待っているところです。
GBP/USD: ドルが下落すれば、ポンドは上昇
- 11月のイギリスの製造業景況感指数は9月と比べると、やや上昇しています: PMI は46.2 から 46.5 ポイント (予想46.2)。しかし、これがGBP/USDの相場に大きな影響を与えることはありませんでした: EUR/USD とほぼ同じで、米国のイベントに反応した動きでした。今週は、1.2153 から8月上旬の高値1.2310までの上昇が続きました。今週の終値の鐘は、やや下げて1.2280 で鳴りました。
このように、ドルは、この1週間でポンドに対して1.2% 前後の下げとなりました。現在、GBP/USD は、重要なレベルである1.2450からやや外れています。これは、今年の初めに抜け出したここ数年の安値圏です。フランスの金融コングロマリット、ソシエテ・ジェネラルのストラテジストによると、強いレジスタンスゾーンがある場所だといいます。“この抵抗からの退陣は引き戻り段階に戻す可能性があります” と記述しています。 “下落が続けば、50DMA でもある10月の高値1.1500は、最初のサポート水準になると予想されます” 。もし、このペアが1.2450を上回って安定すれば、ソシエテ・ジェネラルは、1.2750 、または、これより高い1.3250-1.3300 圏内の上昇傾向へとつながると予想しています。
もちろん、繰り返し記述しているとおり、主要中央銀行が景気後退局面で、どのくらいの早さで、どの程度の金利の引き上げをおこなうかが相場の決め手となります。イギリスでインフレ圧力が大きくなれば、イングランド銀行(英銀)の利上げが積極的になる可能性があります。しかし、多くのエコノミストによると、過剰な金融引き締め策がイギリス経済を長らく停滞させる可能性があるため政府は思い切った政策を避けることになるでしょう。今年末のメインイベントについては、12月14日と15日にFRB、ECB、英銀の会合がほぼ同時に予定されていることを思い出してください。
これまでの中央予想値は、EUR/USD と同様: アナリストの50% は強気、30%は弱気、残り 20% は中立です。一方、中央予想になると、弱気派が80%に上ります。D1のトレンド系とオシレーター系では、100%が緑ですが、オシレーター系の 15% は買われ過ぎ圏内です。サポートレベルは、1.2210、1.2145、1.2085、1.2030、1.1960、1.1900、1.1800-1.1840、1.1700-1.1720、1.1600、1.1475-1.1500、1.1350、1.1230、1.1150、1.1100。このペアは上昇すれば、1.2290-1.2310、1.2425-1.2450、1.2575-1.2610、1.2750がレジスタンスになるでしょう。
イギリス経済のイベントでは、11月のサービス部門購買担当者指数(PMI)が発表される12月5日(月)に注目が集まるでしょう。翌日の12月6日(水)には、建設業PMI が発表されます。
USD/JPY: また、円はFRBに感謝
- この3週間のUSD/JPY の取引幅は、137.50-140.60でした。11月21日に上値を伸ばそうとしましたが、FOMC (連邦公開市場委員会) の前回の会合の議事録が公表されたことで、引き戻されました。当時、あるアナリストが、“世界(米国以外) をハト派に転じさせ、ドルと米国債の下落をもたらしたFRBの議事録に感謝” と記述しています。
先週、世界は11月30日(水)のドル安と米国債の利回りをさらに下げたFRBのジェローム・パウエル議長の発言に再び感謝をしました。USD/JPY は、重要人物である議長の発言の後、急落、下値支持線を突破して、133.61水準で安値をつけました。
12月2日の雇用統計の結果を受けて、米国通貨は下げを取り戻すチャンスがありました。前述どおり、NFP が263,000で予想の200,000を上回り、USD/JPY は230 ピップス以上の135.98に上昇しました。しかし、市場は失業率の水準が変わらず、新規雇用が 2021年4月以来の最も低い水準の263,000であることを認識しました。このペアは、再び、下落して、134.33で終了しました。
パウエル議長の“素晴らしい”発言の後、10年利回り国債は9月20日以来の低水準の3.5%まで下落したことを思い出してください。オランダの大手金融グループのING ストラテジストの予想では、2023年末の利回りが2.75%前後なら、 その時、USD/JPY は125.00-130.00圏内、つまり、2022年5月-8月に取引された水準になるかも知れません。
その一方で、直近の予想は、かなり不透明です。アナリストの45%は弱気シナリオ、35%が強気シナリオの予想で、 20% が中立です。しかし、このケースでは、ほとんどのアナリスト(70%) が中期的にはドル高のシナリオ予想です。D1のオシレーター系では、このようになります: 100% が下向きで、このうちの25% が売られ過ぎ圏内。トレンド系では、100:0 の割合で赤が多くなっています。
当面のサポートレベルは、133.60 圏内、続いて、131.25-131.70、129.60-130.00、128.10-128.25、126.35、125.00が控えています。レジスタンスは、135.20、136.00、136.65、137.50-137.70、138.00-138.30、139.85、140.60、142.25、143.75、145.30、146.85-147.00、148.45、149.45、150.00、151.55。強気筋の目標は上昇して、高値152.00以上の足場固めです。次が1990年の高値158.00となります。
マクロ経済カレンダの予定では、12月8日(木)に日本の第3四半期のGDPの発表があります。予想では、この指標はマイナスのまま: 0.3%減で日本銀行(日銀)の超金融緩和政策の別の理由となるでしょう。中央銀行の次回の会合は、12月20日に予定されており、金利はマイナス0.1%の据え置きの可能性が高いでしょう。
暗号資産(仮想通貨): 暗号資産の冬に代わりにクリプトゲドン
- 投資家にとって、今まで最悪の言葉は"暗号資産の冬" でしたが、今では、これよりも、かなり厳しい状況を表した新たな言葉が登場: "クリプトゲドン" (アルマゲドンと同じで善と悪の決戦の時)。
昨年の暗号資産業界がひどい状態であったことは誰もがおそらく知っているでしょう。2022年明けのマクロ経済イベントでは、テラの破産がトップ10から2つの仮想通貨を葬っただけでなく、ドミノ効果で多くの業界関係者を破産に巻き込みました。11月には新たなショッキングな出来事、市場大手の一つであるFTX 仮想通貨取引所と関連企業の破産がありました。現在、Digital Currency Groupとその子会社であるGenesis とGrayscaleの今後を懸念する噂が広がっています。
"クリプトゲドン"の次の犠牲者は BlockFi プラットフォームでした。先週の月曜に破産申請をしました。これにより、最も影響を被る債権者は、Ankura Trust Company (7億2900万ドル)、West Realm Shires Inc (2億7500万ドル)、さらには 巨大で全権のあるSEC (3000万ドル)もです。
ビットコインのマイニングコストが市場価格を下回ったため、マイナーは苦境に立っています。つまり、MacroMicro の試算では、11月29日は1BTCあたり$16.500で$19,400でした。このような状況から、業界大手のCore Scientific Incの損失が17億ドルとなり、倒産寸前まで追い込まれたことがあります。
(ちなみに、12月6日にビットコインは、今年、複雑な計算の大幅に削減に直面します。ブロックを見つけるのに現在は10分以上かかります。なお、予想修正では、6% から 9%)。
大きな損失にもかかわらず、業界では希望を持ち続けています。主な予想では、1) BTC/USD は再び下落するが、その後、上昇に転じる、2) 既に底値であり、この先は明るい兆しのみの2つに分かれます。最初のシナリオから見ていきましょう。
まず、投資会社のMobius Capital Partners LLPの共同責任者であるマーク・モービス氏は、ビットコインは今後も下落を続け、当面のターゲットを$10,000とした予想をシェアしています。 このターゲットは、Deribit のオプションデーターと一致しており、ビットコインの未決済、つまり、権利行使価格$10,000の建玉が多くあることを示しています。
暗号資産アナリストのベンジャミン・コーウェン氏は強気相場が間もなく始まることを待っています。しかし、彼の見解だと、大暴落で本当の底値を付けた後に起きるでしょう。シンプルなシグナル: 200日移動平均線とビットコインチャート”の交差点に従っているとアドバイスしています。同氏によれば、このような交差点は12月25-27日でしょう。そして、底を打ち、BTC/USDが着実に上昇していくことが予想されます。同氏の予想では、今のところ、底値には至っていません。 コーウェン氏は、BTC価格が200日SMAとクロスしていなことに加え、Puell Multiple 指数にも言及しています。これまでのサイクルでは、最小値が0.3前後でした。今年の指数は、今のところ、 0.375 までしか下がっていません。
コーウェン氏は、今後の反転の追加根拠として、いままで1年前後であった弱気市場の期間を指摘しています。2014 年のサイクルは14 ヶ月、2018年は12ヵ月続きました。
有名な暗号資産トレーダーのトン・ベイズ氏は、強気相場が1年にわたる弱気市場をどのように終わらせることができるかを説明しています。同氏によれば、ビットコインの価格を11月の高値まで押上げることが必要で、これにより、急騰が始まるとしています。 “$23,000への動きを見てみたいです。反発すれば、$19,000 で固め、そして、さらに$23,000に戻る必要があります。これは、強気相場の始まりを95% から98% 示している可能性があります” と同氏は記述しています。
しかし、2018年のビットコインの崩壊を予測した暗号資産トレーダーは、ビットコインが新たに売られることも無視していません。 “もう一つのシナリオは、$11,000の下落。ビットコインがそれ以上下落するとは思えないので、この後は、すぐに強気市場が始まるでしょう” 。どちらのシナリオでも、年末もしくは2023年明けには、ビットコインが$23,000になるとベイズ氏は予想しています。
2つ目のシナリオ、弱気トレンドの始まりはIntoTheBlock のデーターが示しています。こちらの企業のアナリストは、ビットコインが現在、急激な逆行安の状態であると指摘しています: 通常の(スポット)市場における現在の価格と比較して、BTC先物は、かなり安めの価格です。これは、市場が強い売り圧力にあることを示唆しています。トレーダーは、ビットコインの下落が続くことを期待して、積極的に売り注文をしています。
また、IntoTheBlock は、2020 年 3 月と 2021 年 5 月のように先物契約が逆行安の場合、市場の安値と一致すると指摘しています。なお、この場合、暗号資産が底を打ったシグナルでもあります。
このバージョンは、少額(最大10BTC)の個人投資家に支持されています。分析プラットフォーム、グラスノードのアナリストレポートでは、個人投資家はビットコインについて驚くほど楽観的でFTXの破産や危機的状態にもかかわらず、ビットコインの蓄積量は史上最大となっています。
11月のFTX の暴落以降、エビの投資家(1 BTC以下) は、16億ドル相当の96,200 コインを追加して、“今までにない残高の増加”がレポートされています。現在の合計は、121万BTCにもなり、現在の供給量である1920万コインの6.3%相当になります。 一方で、“カニ” (最大10 BTC)は、この30日間で 約 31 億ドルに相当の191,600 コインを購入しており、こちらも “当然、史上最高”です。
カニやエビといった投資家が記録的な蓄積をしている一方で、大口投資家は売っています。グラスノードによると、この1ヵ月でビットコインのクジラは、6,500 BTC (1億700万ドル) を売却しています。しかし、これは、クジラが保有している およそ630万BTC(1,040億ドル)のごく一部でしかないので、クジラも同じように楽観的なままであることを示唆しています。
多くのインフルエンサーたちも、今後については楽観的です。Fundstrat Global Advisorsのリサーチ責任者で有名なアナリストのトム・リー氏は、前述の2022年の悲劇は業界における “浄化” なので、来年は良くなるに違いなく、ビットコインは、まだ、投資ツールとして役立つと記述しています。
暗号投資会社ギャラクシーデジタルのマイケル・ノボグラッツCEO も業界全体が危機に陥ってるのにもかかわらず、デジタル資産は市場から消えないと考えています。“資産の一部をビットコインに預けた人は、1億5000万人にもなります。[…] そのため、ビットコイン、イーサリアムは消滅しません。ほかの暗号資産も同じでしょう” と述べています。
同氏は、暗号資産業界の回復とその上昇が遅いことを予測しています。 “ARKインベストのキャシー・ウッドCEOのような人々が間もなく暗号資産に参入して投資する様子を見ることになるでしょう。私は、これがすぐに回復させることになるとは思いません。かなりの時間がかかることでしょう。信頼の回復は簡単ではありません” と語っています。キャシー・ウッド氏、自身は、ヤフーによると、2030年までにBTC価格が100万ドルになるという予測に変わりはないかという質問に“イエス” と応えています。
その一方で、このレビューの執筆時(12月2日金曜日夕方)、 BTC/USD は、憧れの100万ドルを大きく下回り、$17,040 圏内で取引されています。株式市場の指標(S&P500、ダウ・ジョーンズ、ナスダック) との相関は、ほぼ回復されています。Crypto Fear & Greed インデックスは7日間で20 から27ポイントに上昇、ついに、非常に恐怖から恐怖圏内へ抜け出せました。なお、暗号資産市場の時価総額はやや上昇して、0.859兆ドル(1週間前は0.833兆ドル)です。
NordFX Analytical Group
注意: この内容は金融市場への投資推奨やガイドラインではなく情報提供のみを目的としています。金融市場の取引には、リスクが伴うため入金した資金のすべてを失う可能性もあります。
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